鈴木先生が肌構造と同類のラメラ(液晶)構造(注1)を持つ化粧品開発に注力していたのは90年代初頭でした。鈴木先生の頭の中には理論的にも可能であるその化粧品(クリーム)の形が見えていました。しかしながらビーカーの中ではなかなかそのものを具現化することが出来ませんでした。
そんな試行錯誤を重ねていたある夏の日それは思いもよらぬ形で鈴木先生の前に姿を表します。
関西方面の化粧品原料基材を扱う会社から、オーダーしていた原料基材が皮膚臨床薬理研究所(Hifuken)に届きました。それらの原料基材はトラックに揺られ長旅の末、東京に到着しました。何気なくその荷物から取り出したある原料基材の中にこれまで鈴木先生が見たことのない層状の乳化物が存在していました。
それは輸送中のトラックの揺れから攪拌が起こり、
偶然この原料基材の構造に変化が生じたものでした。 その水と油が交互に重なり合う ミルフィーユのような層状!! それこそがラメラ構造であり鈴木先生が 思い描いていた理想の形状でした。
この偶然の産物から鈴木先生はラメラ構造の化粧品実現の確信を深めます。トラックの速度や貨物内の温度、基材の容量等、さまざまな要素を分析、そこからビーカー内で適切な攪拌を起こすという実験を繰り返しました。
そして1995年8月8日、
鈴木先生は肌構造と同類の性質を持つ =形状100%ラメラ(液晶)構造の クリームを完成させます。
これは森川先生が「皮脂こそ理想の天然のクリーム」と称したものと同じ、バリア機能の役割を果たすクリームの原型でした。皮脂分泌が正常であること、細胞間脂質(注2)のラメラ構造が整っていることで潤いのあるみずみずしい肌は成立します。皮脂と類似した機能を果たすこのラメラ構造クリームが実用化されればアトピーや敏感肌など様々な肌トラブルや悩みを解決することが出来る。そんな21世紀の化粧品製造法が20世紀の黄昏時に人知れず渋谷の片隅で完成していたのです。
続く。
注1 後に世界特許として「液晶乳化組成物の製造法」を取得。
注2 細胞間脂質はバリア機能を司る角質層にあり角質細胞を繋ぎ合わせ肌内部の水分蒸発を防いでいる。水と油が層状に重なり合いラメラ構造となっている。
1995年8月8日、鈴木先生が完成させた世界初の100%ラメラ構造を持つクリームのプロトタイプの実物。
いっさいの防腐剤を使用していないにも拘らず、カビの発生は皆無、その形状は25年以上経過した現在も保たれている。 |
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2021.02.01